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特集 遺伝子-脳回路-行動
遺伝子からみた脳の進化のシナリオ
Brain evolution from gene scenario
八木 健
1
Takeshi Yagi
1
1大阪大学大学院生命機能研究科時空生物学講座心生物学研究室
pp.3-12
発行日 2009年2月15日
Published Date 2009/2/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.2425100819
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フランシス・クリックが「驚くべき仮説」1)において-心の活動の基盤は脳にある-といったように,脳は遺伝子の産物であるという考えは,もはや驚くに値しない。この意味で,脳の働きを遺伝子から解いていくことは自然の成り行きであり,実際に,脳の発生,機能,疾患が遺伝子を用いた研究により明らかにされてきている2)。一方,脳はヒトをヒトたらしめる器官であり,「われわれはどこから来たのか われわれは何者か われわれはどこへ行くのか」(ゴーギャン)の答えをもつ器官でもある。ヒトの脳は生物の進化の歴史の中で生まれ,拡大,複雑化してきた。また,脳は種々の動物種において多様化し,個々体において個別化して個性や意識を生み出している。進化は偶然の遺伝子変異と自然選択によりもたらされたとされ,ジャック・モノーは「偶然のみが,生命圏におけるあらゆる革新,すべての創造の源泉である。すべてが偶然。絶対的に自由で,しかも盲目的なもの。それこそが,進化という驚嘆すべき建造物の根底に横たわっているのだ」としている3)。遺伝子からみた脳の進化のシナリオとは,この意味で,遺伝子の変異の偶然が,脳の進化でみられる必然をどのように生み出しているかという問いである。
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