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中枢神経系における最も主要な抑制性伝達物質であるγ-アミノ酪酸(GABA)が,神経細胞の発生期にはシナプスを介さないパラクライン的な作用で脱分極とCa2+流入を惹起して神経細胞への分化や細胞移動を促したり,その後の神経回路形成期には興奮性伝達物質としてシナプスの形成や強化に関与する可能性が近年示唆されている1,2)。すなわち,GABAは発達段階に応じて異なった役割を持ち,神経系の発達初期におけるその役割は古典的概念の抑制性伝達物質とは大きく異なっている。その機序として回路形成期に特異的なクロライドホメオスタシスとその発達的変化,すなわちクロライドトランスポーターがクロライドホメオスタシスを変化させることによりクロライドイオン(Cl-)をチャージキャリアとするGABA作用の興奮/抑制の調節を行い,神経回路の形成や機能の発達に積極的に関与しているのではないかと考えられる3)。まずGABAを興奮性に作用させて回路構築を促し,その後で抑制性に変化させることにより,成熟型の神経回路網を完成するという仮説である。
一方,視覚情報は外側膝状体背側核で中継され,大脳皮質視覚野へ投射するが,この視覚情報処理には発達依存的および活動依存的な可塑性が起こることがよく知られている。これらの可塑性にかかわる神経回路網の変化は,外側膝状体および一次視覚野のレベルのそれぞれで起こるが,視覚野の可塑性の臨界期の決定におけるGABAの重要な役割が最近明らかになった。しかし,外側膝状体の可塑性におけるGABAの役割は視覚野のそれと異なることも示唆されているが,詳細はまだよくわかっていない4)。もし外側膝状体と視覚野の可塑性におけるGABA作用に差異があるとすると,前述の仮説に立てば,そのメカニズムとしてクロライドホメオスタシスの違いが関与している可能性も考えられる。そこで,本稿ではまずクロライドホメオスタシスとGABA作用の関係について振り返り,ついで外側膝状体のクロライドトランスポーターとクロライドホメオスタシスに関して,その発達過程,特に視覚野との差異に注目して行った研究について述べてみたいと思う。
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