特集 生命科学のNew Key Word
10.脳の働くメカニズムとその研究方法
小鳥の歌文法
岡ノ谷 一夫
1,2,3
Kazuo Okanoya
1,2,3
1千葉大学文学部認知情報科学
2理化学研究所
3科学技術振興機構
pp.508-509
発行日 2004年10月15日
Published Date 2004/10/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.2425100627
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鳥類は音声コミュニケーションを多用する。なかでも鳴禽類に分類される鳥類(いわゆる小鳥)は,オスからメスへの求愛,およびオスの縄張り防衛の機能を持つ複数の音節からなる発声を行い,これを囀りまたは歌という。幼鳥は生得的な聴覚選好にもとづき,周囲の音声から自種の歌を選択して記憶する。オスは成長にともない性ホルモンの分泌が活発になると原始的な発声を始め,その発声パターンと幼鳥期に作った聴覚記憶との照合を行い,誤差を修正しながら歌の運動パターンを鍛錬してゆく1)。
キンカチョウなど多くの鳥の歌は,3-10程度の歌要素を固定的に配列してうたわれるが,歌要素を動的に配列してうたう鳥もある。ジュウシマツはその代表で,平均八つの歌要素が,2-5要素からなる固定的な配列であるチャンクにまとめられ,それらが確率的な遷移規則(有限状態文法)に則って生成される。図1aに,ジュウシマツの歌の生成文法の一例を示す。この例では,歌要素ab,cde,fgがそれぞれチャンクをなし,ab-cde-ab-とうたわれたり,ab-cde-fg-ab-とうたわれたりする。この単純な規則により,生成される歌系列に多様性が出ることになる2)。
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