発行日 1947年1月15日
Published Date 1947/1/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661906170
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蠅の患者に醫療費をフライにされて殘念無念と齒ぎしりを噛んだ先生相手が惡かつたと看板を書き變へました。「子鳥診療院」こんどはかならず成功すると心に祈りながら縁側の日和ぼつこで患者待つ間のパイプをプカリプカリとやつてゐます。するとあわただしい音をさせて飛込んで來た一羽の小鳥,そらお出でなすつたと先生先づ入口のドアーを閉めて捕るのにひと騒ぎです患者さんは天井と云はず窓と云はずバタバタバタバタ飛びまわるのでどうして捕まえようと箒でおいまわす騒です。「風呂敷でおかぶせになつたら」と奥さんより注意されて「よし」とばかり取つて抑へた先生ようやくの思で患者さんを兩手に握り「お名前は」と聞いても小鳥の事ですから返事はありません。とに角たつた一ツの病室鳥籠を持つて來てそつと入れました,鶯かな鶯にしては尾が短いもしやと思つて家庭百貨全書を取り出して調べて見ると……紛も無い鶴(みそさざえ)でした。では習性に隨つて病院も造らねばと先生庭の隅から枯草を一捕み,散紅葉それに野の趣を添へる爲に南天を持つて來てさながらに晩秋の趣深い小藪の姿を造り上げました。そして水を入れ粟を一捕みやつて又外に出て子蟲を取つて來て入れてやりました,病院が氣に入つたと見えて患者の鷦は藪に頭を突込んだりして夕方迄元氣に跳廻つておりました。大分経過が良いなと一人言を云ひながら先生はみそさざえの事は一寸忘れそのまゝにして御用足にお出掛になりました。
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