特集 生命科学のNew Key Word
9.脳の遺伝子・分子/細胞過程
標的依存性神経細胞死
八木沼 洋行
1
Hiroyuki Yaginuma
1
1福島県立医科大学医学部解剖学第一講座
pp.496-497
発行日 2004年10月15日
Published Date 2004/10/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.2425100622
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発生過程の神経系の多くの部位において,過剰に産み出された神経細胞が,細胞死を起こして最終的な数まで減少することが知られている。このようなプログラム細胞死が起こる理由を説明する概念が「標的依存性神経細胞死」である。これは「幼弱な神経細胞の生存のためには,標的器官から供給される栄養因子が必要であるが,発生過程では,供給される栄養因子の量に対して過剰な神経細胞が産み出されるため,栄養因子獲得の競合が起こり,十分な因子が得られなかった神経細胞が内在している細胞死プログラムによって死ぬ」という考え方である。ただし,「標的依存性神経細胞死」という用語は,神経の標的器官が積極的に神経細胞死を誘導するというような誤解を招くおそれがあり,むしろ「標的依存性の神経生存」あるいは「標的器官との関係によって引き起こされる神経細胞死」とする方が適切であると思われる。
20世紀前半の発生学的研究により,神経細胞の数が標的器官の量と比例関係にあることが見出されていた。この比例関係の形成過程に神経細胞死が関わっていることを最初に示唆したのは,Levi-MontalciniとLeviであった。さらに,HamburgerはLevi-Montalciniと詳細な共同研究を行い,頚部や体幹部という末梢標的器官が上肢や下肢の領域より少ない部位の脊髄神経節における細胞死がより強く起こることを確認し,「脊髄神経節細胞は末梢標的器官が維持できる数以上の軸索を伸ばすため,余剰の神経細胞が生存を維持されずに死んでいく」という標的依存説を提出した1)。この後,彼らは神経成長因子の発見に到る研究に進んでいった。
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