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小胞体関連分解(ERAD:ER associated(protein)degradation)とは,小胞体内に蓄積した異常タンパク質を,サイトゾル(細胞質)に引き出して分解する機構のことである(図1)1-3)。小胞体では,多くの膜タンパク質や分泌タンパク質が生合成されているが,正しくフォールドしたタンパク質のみが分泌経路にのり,ミスフォールドしたタンパク質は小胞体にとどめられることがよく知られており,この機能は工場での製品管理に例えて,小胞体の品質管理(QC:Quality control)と呼ばれている4)。ミスフォールドしたタンパク質を処理する経路として,ERADはQCの重要な一部分を担っている。
細胞内で生合成される新生タンパク質の実に30%が,生合成過程でミスフォールドしてしまって,細胞内分解を受けることが報告されている5)。小胞体でも,これくらいの量のタンパク質が,生合成時のフォールディングに失敗して,分解されていくと考えられる。その他にも様々な理由で小胞体内に異常タンパク質が蓄積してくる。例えば,サブユニット間の会合がうまくいかずにミスアセンブルしたり,種々の小胞体ストレスが加わったためにタンパク質がミスフォールドする場合,遺伝子の変異によって,タンパク質が正しい高次構造をとれなくなった場合などである。このようにしてフォールディングに失敗したタンパク質は,小胞体内にとどめられて,分子シャペロンやフォールディング酵素の助けを借りて再フォールディングが試みられるが,最終的にフォールディング不能と判定されると,細胞内分解を受けることになる。このような異常タンパク質の多くは,小胞体から細胞質に逆輸送された後に,細胞質に存在するプロテアソームによって分解されることが発見され,ERADと名付けられた6)。このシステムは,真核生物において,酵母からヒトまでよく保存されている。ERADの機構を使って,小胞体で作られたタンパク質をわざわざ細胞質へ引き出して分解するのは,ひとつには,タンパク質生合成の場である小胞体と,タンパク質分解の場を分けるためと考えられる。さらにこの機序は,正常タンパク質のダウンレギュレーション(脂質合成酵素の調節性分解など)や,ウイルスタンパク質の細胞内進入,ウイルスの細胞内増殖などにも巧妙に利用されている。
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