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真核細胞では,遺伝情報を保持し複製する場である核と,その遺伝情報に基づいて蛋白質を合成する場である細胞質が,核膜と呼ぶ2層の脂質二重層で隔てられている。細胞が正常に機能するために,核と細胞質は常に核膜を介してRNAや蛋白質などの物質を流通させ,情報を交換する必要がある。このような核-細胞質間物質輸送は,核膜を貫くように存在する核膜孔と呼ばれる物理的な小孔を介して行われる。核膜孔の内周には,核膜孔複合体と呼ぶ巨大な蛋白質複合体が核膜孔を取り巻くように存在している。哺乳動物細胞の場合,通常,1個の核当たり数千個の核膜孔が存在する。1個の核膜孔複合体を構成する蛋白質(ヌクレオポリンと総称する)は約30種類あると考えられている。
分子質量が2~4万ダルトン以下の低分子は,核内外の濃度勾配に従った単純な拡散(受動拡散)によって核膜孔を通過することができる。一方,それ以上の質量を持った分子は単純な拡散では通過することができず,その細胞が持つ特異的な輸送装置によって促進的に輸送される。なお,分子質量が受動拡散で通過できる大きさの分子であっても,輸送装置による促進的な輸送機構によって運ばれる分子も存在する。これらの輸送装置によって促進輸送される蛋白質は,通常,それ自身の分子内に促進輸送されるために必要な機能ドメインを持っている。細胞質から核内に移行するために機能するドメインを核局在化シグナル(NLS:nuclear localization signal)と呼び,核から細胞質に移行するために機能するドメインを核外輸送シグナル(NES:nuclear export signal)と呼ぶ。両シグナルともに,蛋白質分子内の特定の位置に存在するという法則性はなく,ミトコンドリアに輸送される蛋白質が持つミトコンドリア指向配列や,分泌蛋白質などが持つシグナルペプチドのように,輸送過程で蛋白質分子中から切り離されることはない。これは,核内外を移行する蛋白質は,通常,何度も核膜を通過する可能性があることを示唆しており,実際,核と細胞質の間を出入りする(シャトルする)蛋白質の例が数多く報告されている。
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