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真核生物の細胞核は脂質二重膜からなる核膜で覆われ,多くの機能性分子の自由な出入りが制限されている。そのため,核-細胞質間の情報伝達は,機能性分子の選択的な輸送によって行われる場合が多い。核-細胞質間輸送機構は多様であり,タンパク質,RNAなどを運搬する様々な経路が存在する。近年,ストレス応答や細胞分化に際して,核-細胞質間タンパク質輸送を担う輸送受容体の細胞内局在や発現量が変化することが明らかになった。特に細胞分化については,輸送受容体の発現変化が分化の方向性を決める重要な要素であることが示されている。本稿では核-細胞質間タンパク質輸送機構について解説し,高次生命現象においてどのような役割を果たしているのか考察する。
真核細胞の核を包む核膜上には核膜孔が存在する。サイズの小さなタンパク質は拡散により核膜孔を通過するが,大きなタンパク質は特定の輸送受容体により選択的に通過する。細胞質から核へと運ばれるタンパク質の多くには,アミノ酸配列上に核局在化シグナル(NLS)が存在する。一方,核から細胞質へと運ばれるタンパク質の多くには核外輸送シグナル(NES)が存在する。NLS受容体importin αは塩基性アミノ酸に富んだNLSを認識する。このようなNLSをもつ機能性タンパク質は多数存在し,importin αが多くのタンパク質の輸送を担うことが示唆される。NLSタンパク質と相互作用したimportin αに,さらにimportin βが結合して三者複合体が形成されると,importin βの機能により複合体は核膜孔を通過し,NLSタンパク質が核内へと輸送される。その後,importin αおよびimportin βはそれぞれ低分子量GTPaseのひとつであるGTP結合型Ranの機能によって再び細胞質へと運び出され,リサイクルされる。
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