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「染色体テリトリー」とは,間期における核内染色体の存在様式を表している。間期とは,細胞周期における分裂期(M期)以外のG1,S,G2期の総称である。染色体は,通常,真核生物の細胞分裂中期に観察され,DNAがヒストン,非ヒストンタンパク質とともに高度に折りたたまれた構造物であり,ゲノム遺伝情報の担体として機能している。間期における個々の核内染色体は,高度に区画化され,互いに相容れないドメイン構造を持ち,一定の核内空間(テリトリー)を占めている。また,間期の染色体は,分裂中期で見られるような高度な凝集を解かれ,いわゆるクロマチンファイバーの集塊として存在し,染色体腕領域,バンド領域,サブバンド領域,さらにその下位のクロマチン顆粒に至る階層構造から成るものと考えられている1)。
「染色体テリトリー」という用語は,ドイツの細胞生物学者Theodor Boveri博士によって今から95年も遡った1909年に提唱されており,実はNew Key Wordではなく,その研究の歴史は古い1-3)。Boveri博士はウマ回虫の初期胚の細胞分裂過程を詳細に観察して,間期核における染色体の存在様式とその核内配置に関する次のような「Boveriの仮説」を提唱した2)。(1)間期核における染色体はテリトリー構造を呈する,(2)染色体テリトリーの核内配置は間期において安定に維持される,(3)隣接する染色体テリトリーの配列順序は,分裂前中期に染色体が核板上に移動してロゼットを形成する際に置換し得る,(4)一度ロゼットが形成された後は,後期,終期にわたり二分されていく娘細胞においても配列順序が維持され,分裂後はほぼ対称的な配置となる。この説に対し,1960~70年代には,テロメアやセントロメア部位が核膜をアンカーとして様々な染色体由来のクロマチンファイバーがほどけてランダムに入り混じった,ノンテリトリー説が支持されていたこともあった。しかし,近年開発された3D-FISH(three dimensional-fluorescence in situ hybridization)法により,個々の核内染色体は高度に区画化された「染色体テリトリー」構造を持つことが視覚的に明らかにされ(図1),最初に染色体テリトリーの概念を体系化・提示したBoveri博士の優れた先見性は高く評価されている1,3)。
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