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近年,累積されてきた多くの生物種におけるゲノム配列情報は,われわれヒトを含め,現存する地球上のすべての生物は共通の祖先から進化したことを裏付けている。しかし,どのように進化は起きたのか。そのきっかけとなった遺伝子変化はいったい何であったのか。このような進化のダイナミクスに関わる問題へのゲノム科学のアプローチとして,ある生物種にのみ存在し,その生物種を特徴づけるような機能に関係する遺伝子(群)を同定し,その由来を明らかにするという方法が考えられるであろう。
われわれはゲノムインプリンティングという哺乳類に特異的な遺伝子発現調節機構の研究を行ってきた。その中で,母親性2倍体が初期胚致死を引き起こす染色体領域(マウス染色体6番近位部)における原因インプリント遺伝子を探索中に,とても興味深い遺伝子を発見した。2001年にPEG10(paternally expressed genes 10)と命名して報告したこの遺伝子は,父親由来の染色体のみから発現するインプリント遺伝子であるが,哺乳類にのみ存在する遺伝子であり,その構造からsushi-ichiレトロトランスポゾンに由来する遺伝子であると考えられた1)。その根拠は,PEG10のコードする二つのタンパク質のコーディングフレーム(ORF)はそれぞれがレトロトランスポゾンのGAGおよびPOLタンパク質に相同性を有していること,そして,レトロトランスポゾンやトランスポゾンではGAGとPOLの二つのORFが翻訳される際,“リボゾームの-1フレームシフト”によりGAG-POL融合タンパク質が生成されるが,PEG10の翻訳もその機構によりORF-1とORF-2の融合タンパク質が発現していることの2点である。この遺伝子の機能と起源の解析は,“哺乳類の進化に大きな寄与を果たしたレトロトランスポゾン由来の獲得遺伝子(群)”という新しい発見に結びついた。
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