特集 現代医学・生物学の仮説・学説2008
1.細胞生物学
生殖細胞と体細胞の分化とmiRNAの関与
井上 邦夫
1
Kunio Inoue
1
1神戸大学大学院理学研究科生物学専攻
pp.356-357
発行日 2008年10月15日
Published Date 2008/10/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.2425100512
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生殖細胞は次世代を生み出すことのできる特別な細胞である。始原生殖細胞の形成様式は多くの動物種において,大きく二つに分類される1)。第一の様式は生殖質(germ plasm)と呼ばれる母性細胞質による決定機構であり,ショウジョウバエ,ツメガエル,線虫などでよく解析されている。生殖質にはRNAと蛋白質の巨大複合体からなる生殖顆粒(ショウジョウバエでは極顆粒,線虫ではP顆粒と呼ばれる)が含まれている。ショウジョウバエではoskar遺伝子が生殖顆粒形成の鍵となっているが,他生物種では相同機能を有する遺伝子は未同定である。第二の様式はマウスや有尾両生類などで見られ,胚誘導現象による形成機構である。いずれの形成機構の場合にも生殖系列細胞において共通に発現するいくつかの遺伝子の存在が見出されており,種を越えた生殖細胞の特性を理解する重要な手がかりとなっている。
生殖細胞と体細胞が正しく分化するためには,それぞれに特異的な遺伝子発現が厳密に制御されなければならない。生殖質による生殖細胞形成機構においては,生殖質あるいは生殖顆粒の構成因子が体細胞に取り込まれると,生殖細胞形成プログラムの誤作動による発生異常が起こる可能性がある。そこで,初期胚において,この誤作動を防ぐための保証機構が働いていることが明らかとなってきている。本稿では,小型淡水魚ゼブラフィッシュ(Danio rerio)における生殖細胞と体細胞の分化機構を紹介する。
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