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古典的にニューロン間の隙間を埋める細胞として位置づけられたグリア細胞は,活動電位を発しないがゆえに,脳が司る高度の情報処理機構の中では永くその意義が問われなかった。しかし近年,グリア細胞とニューロンの相互作用は脳の発達過程のみならず,成体における情報処理機構に関与する証拠が断片的ながら出されるに至り,にわかに注目を集めている。その生物学的意義の認識は大きく変わろうとしている。グリア細胞はミクログリア,オリゴデンドログリア,アストログリアに大別され,ヒトの脳ではニューロン総数の約10倍,げっ歯類でもニューロンと同等数存在すると見積もられている。ミクログリアは骨髄由来の単球系細胞であり,老廃物の貪食に与かる。オリゴデンドログリアは末梢神経のシュワン細胞と同様にニューロン軸索を取り囲み,軸索を電気的に絶縁し,活動電位の伝達効率を高める役割を担う。アストログリアの細胞突起はニューロンの前シナプスと後シナプスを取り囲み,ニューロンとアストログリア間の相互情報交換の場となりやすいので,三者シナプスと呼ぶことが提唱されている。三者シナプスにおけるシナプス伝達効率の調節について,グルタミン酸や細胞外イオン濃度の調節を介する機構については比較的取り上げられることが多く,ここでは触れない。
ニューロンとアストロサイトの相互作用の観点で,アストロサイトが示す極めて高度の形態的可塑性が注目される。特に,多様な原因で生じる脳の障害時に誘導される反応性アストロサイトの形態変化はよく知られている。この変化は当然三者シナプスの形態変化を伴うので,必然的にシナプス伝達効率を修飾すると考えられる。この変化はアストロサイトにおける遺伝子の発現変化を伴う。アストロサイトの細胞骨格を構成するグリア酸性蛋白質(GFAP)や,低分子カルシウム結合蛋白質S100Bをコードする遺伝子の発現変化は,反応性アストロサイトを特徴付けるものとして古くから知られている。アストロサイトから分泌される蛋白質がシナプス伝達を積極的に制御するとしても,その効果は比較的緩やかな時間経過を辿ると考えられるし,比較的広範囲に影響を及ぼすと考えるのが適切かもしれない。情報の伝達にニューロンネットワークのように明白な極性を持たないアストロサイトネットワークが,緩やかな時間経過でニューロンのシナプス伝達を制御することの意義は何か。ここでは,シナプス可塑性に関与するとされるグリア細胞由来の蛋白質因子の脳機能の中での意義について考察したい。
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