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ダウン症候群(Down syndrome;DS)は21番染色体(Chr21)トリソミーにより生ずる先天性疾患であり,主な症状として,精神発達遅延,心奇形,特異的な顔貌,急性骨髄性白血病の発症頻度が高く,アルツハイマー病の早期発症の確率も高い1)。多くの表現型異常のなかで,必ず認められる異常はChr21トリソミーに起因し,必ず観察されるわけではないが一般集団よりも頻度の高い異常はChr21トリソミーに加え,遺伝的背景・環境要因・エピジェネティック不安定性が関与していると考えられる2)。では,なぜ20を超える多様な臨床症状がDSに存在するのであろうか。単にChr21トリソミーによる1.5倍の遺伝子量効果なのだろうか。'いつ'(時期特異的),'どこで'(組織特異的),'どんな' 発現異常を引き起こすのかが,種々の表現型異常発症のメカニズムを解明する上で重要である。表現型発症につながる 'どんな' 異常が引き起こされるかを図1にまとめてみた。Chr21トリソミーが引き金となり,1)Chr21上の単一の遺伝子が単一の表現型を引き起こす場合,2)Chr21上の複数の遺伝子が表現型を引き起こす場合,3)個々の遺伝子ではなくゲノムアンバランスそのものが表現型を引き起こす場合,があると考えられる(図1A)。'いつ' に関しては出生前もしくは出生後のある短い期間異常をきたして表現型を呈するものもあれば,長い期間異常をきたして表現型を呈するものもあると考えられ,個々の表現型で異なってくる可能性がある(図1B)3)。また,遺伝的背景,環境要因が同じでも異常な表現型が観察される場合とされない場合がある4)。この原因として,トリソミー状態によりエピジェネティック不安定性が引き起こされ,このことがいろいろな遺伝子発現をランダムに変化させて表現型異常の多様性を引き起こしていると考えられる。ゲノムアンバランスやエピジェネティック不安定性という概念は新たな仮説ではあるが,トリソミー症候群には多くの共通する表現型が存在することから2),注目すべき点である。
表現型発症のメカニズムには上述したような複数の原因が考えられるが,原発要因(Chr21トリソミー)が次にどのような遺伝子発現の変化を引き起こし,最終的に表現型を引き起こすかという研究は,これまでChr21上の遺伝子のみに焦点が絞られていたことからあまり進んでいなかった。最近,われわれを含めいくつかのグループから種々のDSモデルマウスを用いて,表現型異常に直接または間接的に影響を与える可能性のある遺伝子・タンパク質がトランスクリプトーム解析やプロテオーム解析により同定されてきた。本稿ではトランスクリプトーム解析,プロテオーム解析から見えてきたChr21トリソミーの意味について紹介したい。
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