特集 生物進化の分子マップ
8.ミトコンドリア
進化におけるミトコンドリアから核への遺伝子移動モデル
山内 淳
1
Atsushi Yamauchi
1
1京都大学生態学研究センター
pp.390-391
発行日 2006年10月15日
Published Date 2006/10/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.2425100277
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ミトコンドリアは,自由生活を営んでいたバクテリアの仲間が真核細胞内に取り込まれ,共生関係を獲得したものだといわれている。その後の長い共生関係の間に,ミトコンドリア由来の遺伝情報は徐々に真核細胞の核へと移行して行った。実際,自由生活を営むバクテリアのゲノムサイズ4,000-6,000kbに比して,被子植物のミトコンドリアは160-2,000kbの大きさの中にミトコンドリア関連の遺伝子の10%程度が含まれているにすぎず,さらに動物のミトコンドリアにいたっては16-20kbほどのサイズにイントロンを含まない37個の遺伝子がコードされているだけである1-3)。そしていずれの場合も,ミトコンドリア関連の遺伝子の多くは核ゲノム上に位置している。
このように,ミトコンドリアDNA(以後,mtDNA)由来の遺伝子が核へと移行する過程はどのように進行したのだろうか。また,動物と植物の間に見られる移行の程度の違いは,どのような要因を反映しているのだろうか。筆者はこれらの問題を考えるために,数理モデルを用いてシステムの挙動を理論的に解析した4)。理論モデルの仮定として,遺伝子を失って小型化したmtDNAは,元々のサイズのmtDNAよりも細胞内で素早くコピーを増やすことができるため,両者が共存する細胞は一定の確率αで変異mtDNAのみを含む状態へと移行するという条件をおいた(細胞内競争:intracellular competition)。
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