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本書を拝読してまず感じるのは、これは単なる当直マニュアルではなく、聖路加国際病院の臨床文化が世代を超えて受け渡されてきた記録でもある、ということである。1984年の初版から40年を経てなお、本書が研修医から好評を博してきた理由は明らかである。そこには、夜間、限られた情報と資源の中で、若い医師が患者の前に立つという現実への深い理解がある、と私は感じる。第1版の序には、卒後1、2年目の内科研修医が「なるべく自分ひとりの力で、しかも無難に処置ができるように」という切実な意図が記されている。その背後には、私が深く敬愛する日野原重明先生をはじめ、歴代の聖路加国際病院内科の先生たちが、回診と日々の臨床を通じて若い医師を鍛えてきた歴史が垣間見える。マニュアルと銘打ちながら、整理された知識の行間に、患者の苦しみの前で逃げずに考え、次の一手を選ぶ臨床の姿勢が透けて見える。本書には、その姿勢が一貫して流れている。
今回はすでに第10版である。かつて自分が手に取っていたのは第5版で、隔世の感がする。第10版で特に印象的なのは、AI時代におけるマニュアルの意味を正面から問い直している点である。電子カルテにAIが統合され、鑑別診断や初期対応が瞬時に示される時代になっても、標準を築き、更新し続けるのは医療者である。標準化とは現場を一つの型にはめることではない。「よい医師がいるから何とかなる医療」から「誰が担当しても外れのない安心できる医療」へ近づけるための質と安全の仕組みづくりである。重要なのは、判断の分かれ目、引き継ぐべき情報、見落としやすいリスクを言語化し、チームで共有し、改善を反復して最善をめざすことである。第10版の序にある標準化医療への姿勢は、マニュアルを固定された手順書ではなく、現場の経験を安全な診療へ変換する学習システムとして捉えている点に価値があると私は思う。

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