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本書に出会ったのは約20年前、医学部2年生の時で、偶然、初版が発行されてすぐのことでした。大学生協で立ち読みしていたUSMLE(米国医師免許試験)関連の本の横に並んでおり、感染症の特別講義があった直後だったこともあって手に取ったのです。医学部低学年でも、“すごい本”というのはわかるものです。衝撃を受けたのは、今もその原型をとどめつつデザインが洗練された第1章の「感染症診療の基本原則」でした。頁をめくるたび臨床のリアルがそこに展開され、興奮しました。学年が進むにつれ、初版「序」の記述を地で行くように“無数の感染症治療薬に窒息しかかっていた”自分に、先に進む光を与えてくれた感動を昨日のように思い出します。初期研修医時代には、本書の“名所”の1つである感染症フローチャート(本書p.7)に倣い、紙製の温度版にこれでもかというほどびっしり重要な情報を書き込み、温度版を見ただけですべてが一目瞭然にわかるように整理しました。青木先生が「内科は整理の学問だ」とおっしゃるとおり、この温度版の習慣が症例を頭の中で俯瞰して整理する能力を鍛えてくれたと感じています。
『ハリソン内科学』と同様に、「総論」部分が本書の価値の中核を成しています。本書は1,700頁超の大著ですが、頁数に圧倒されたり積読になる心配はありません。時間がなければ各論は必要時に参照するとして、購入日のうちにでも確実にお読みいただきたい第1章は、わずか38頁です。しかし、濃密な38頁でもあります。すべてのページが重要ですが、「重症度を理解する」「各論的に考えよう」(p.2)、「やるとなったら治療は徹底的に」(p.4)、「回復のペース、パターンを予測する」(p.5)、「経時的な変化を追う」(p.6)、「基礎疾患と起因菌」(p.13)、「グラム染色に対しての否定的な意見」(p.19)、「治療効果は何と何で判定するか?」(p.35)、「細菌感染症は悪化か改善あるのみ」(p.37)などは、遅くとも初期研修修了までに体感として骨の髄まで染み込ませる必要があると思います。現場に出て発熱患者に途方に暮れないために、次に読み込み制覇すべき章は、第6章「A 不明熱」(pp.441-459)の19頁です。ここまでの領域が頭の中でクリアに整理されていれば、少なくともベッドサイドでコモンな感染症や熱・不明熱のケースに対峙する準備は整ったと言えると思います。
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