連載 原著・過去の論文から学ぶ・18
金閣放火僧の病誌と症例報告の意義
村松 太郎
1
1日本うつ病センター 六番町メンタルクリニック
pp.1253-1255
発行日 2025年11月1日
Published Date 2025/11/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.188160960770111253
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小林淳鏡: 金閣放火僧の病誌. 犯罪学雑誌26: 126-134 1960
金閣放火事件とは,1950年7月2日未明に鹿苑寺(金閣寺)が放火により全焼した事件で,本論文1)(Fig. 1)はこの事件の犯人Aの生涯を記録した症例報告である。
逮捕されたAの精神鑑定を京都大学精神科教授の三浦百重が行った2)。その鑑定助手を務めたのが本論文の著者小林淳鏡である。三浦は鑑定主文で,Aの精神状態を「軽度ではあるが,性格異常を呈し,『分裂病質』と診断すべき状態にあった」と記している。つまりAは精神障害を有していないという診断で,京都地裁は三浦の鑑定を受けてAを完全責任能力と認定し,懲役7年の有罪判決を下した。Aは服役2カ月後に刑務所内で統合失調症を顕在発症し,激しい幻覚妄想状態を呈した。刑期終了後にはただちに精神科病院に措置入院し,小林淳鏡が主治医となった。その5カ月後にAは他界し,小林は本論文で,Aが統合失調症を発症するまでの前駆状態と発症後に人格が荒廃していく過程を詳細に記述し,金閣放火の時点でAはすでに統合失調症を発症していたと結論づけている。論文の記述から引用する。

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