Japanese
English
- 販売していません
- Abstract 文献概要
- 1ページ目 Look Inside
- 参考文献 Reference
血友病性関節症の病態
血友病は性染色体であるX染色体伴性潜性遺伝疾患であり,通常は男性に発症し,女性は保因者となる.遺伝疾患ではあるが,突然変異により発症することもある.英国のヴィクトリア女王は有名な保因者で,王族同士の結婚によりヨーロッパ各国王家に広がっていったことから,血友病はRoyal diseaseとも呼ばれる.血液凝固因子第Ⅷ因子の欠損あるいは機能低下によるものが血友病A,第Ⅸ因子の欠損あるいは活動低下によるものが血友病Bであり,またその凝固因子活性により1%未満を重症,1〜5%を中等症,5%以上を軽症と分類している.本邦では令和4年度の調査において血友病A:5,776人,血友病B:1,294人の患者総数が報告されている1).出血症状は,脳出血,口腔内出血,消化管出血,尿路出血,筋肉内出血などがあるが,関節内出血は最も多くみられる.関節内出血は,特に重症血友病患者で,歩行開始頃より足関節などの下肢荷重関節を中心に発生する.症状は疼痛,それに伴う可動域制限,関節腫脹,熱感などであるが,生下時早期より治療が行われている場合,いわゆる無症候性の関節内出血も指摘されている2).関節内出血では,赤血球ヘモグロビン由来の鉄成分をマクロファージが貪食し,滑膜細胞やマクロファージからTNF-αやIL-1,IL-6などの炎症性のサイトカインが放出されるため,血友病性滑膜炎となる3).血友病性滑膜炎では炎症状態であるため血管が新生・血流量も増加し滑膜表面が充血するため,その破綻による関節内出血が起こりやすくなる.また,滑膜自体も過形成となり絨毛状に増殖するため物理的にも関節内でひっかかりやすくなり,さらなる関節内出血につながるという悪循環となる4)(図1).このように易出血状態となった関節は,治療的介入の必要性がある.鏡視下滑膜切除術など手術時の滑膜肉眼的所見は,血管新生・血流増加とヘモグロビンの代謝産物であるヘモジデリンの沈着により赤褐色を呈した状態となる.病理組織学的観察では,滑膜細胞は増殖,重層化しており,ヘモジデリンを貪食したマクロファージと炎症細胞の浸潤が認められる.血友病性滑膜炎が遷延すると,関節軟骨や軟骨下骨が破壊され血友病性関節症となる.疼痛により活動性が低下し,さらに筋力の低下・関節可動域の減少をきたすことより,正常な関節の運動が障害され,関節のさらなる破壊へとつながる.血友病性関節症は,特に肘関節・膝関節・足関節が罹患しやすい.血友病患者のQOLに関する令和2年度調査報告書では,30〜50代の血友病患者の約半数が,過去6カ月間に足関節に疼痛があったと報告されている5).

Copyright © 2024, The Japanese Association of Rehabilitation Medicine. All rights reserved.