連載 いつでも・どこでも・かんたんチーム医療・4
―チーム医療の扉をひらく第3の鍵―思いやる―いつもの暮らしへ戻るための対話
趙 岳人
1
1医療法人健生会明生病院・精神科
pp.69-76
発行日 2010年11月15日
Published Date 2010/11/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1689100776
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みんなで暮らした茅葺き屋根の小さな家―むかし―
崖の上の一軒家での自給自足の暮らし
9人兄弟の末っ子として生まれたDさん(60代男性)は、兄弟のなかでも特に甘えん坊の男の子でした。もともと近所づきあいが苦手だったご両親は、集落からもっとも遠い断崖絶壁の上に、何年もかかって茅葺き屋根の小さな家を築き上げました。大人2人・子ども9人の家族が住むには、お世辞にも広いとは言えないつくりです。しかも、どこに行くにしても遠い我が家です。幼いDさんは「ぼくは父さんと母さんとずっとここで暮らしたい。遠い町には行かない」と心に決めていたようです。
人里離れた一軒家での暮らしは、文字通り「自給自足の生活」です。子どもたちもみんなで、飲み水や食べものを手に入れるために両親を助けました。大きな兄や姉は、学校帰りに海辺にいる父親と合流して魚や貝を家に持ち帰ったり、母親と山野草を収穫したりニワトリの世話をしたりと大忙しです。幼いきょうだいは、兄や姉のあとをついて、遊びながら少しずつ自然のなかで暮らす知恵を身につけていきます。末っ子のDさんも、兄や姉のすることをまねて遊んでいるうちに、いつしか手作りの吹き矢でウズラなどの小動物をなんとか仕留めることができるまでになりました。家族みんなが持ち寄れば収穫物が予想以上に多いこともありました。そういうときには近くの集落に持って行き、知り合いの人にお米や塩と交換してもらいました。
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