連載
ソローニュの森 ラ・ボルド病院・5
田村 尚子
pp.97-104
発行日 2010年5月15日
Published Date 2010/5/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1689100718
- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
「精神科医になってからどのくらいになりますか?」
「ぬーう゛ぃえーむきゃふぉんとどゅ(1942)」と、笑いながらウリ院長は私のノートに記してくれた。
ある日の遅い午後に院長の部屋でどっしりとした書斎机を挟んで話をしていた。ソファといくつかの椅子が置かれている。正面と背後には天井までの本棚があり、そのところどころに絵や写真などが置かれていた。ジャコメッティの写真やおどけた格好をした子どもたちが写っているモノクロのポストカード、鯉の姿が書かれた日本画も壁にかかっている。コラージュのアトリエで患者さんたちが作ったアートボードを手に取り見せてくれる。どれも色彩鮮やかで、奇想天外な世界観が1枚のカードに詰め込まれている。
しばらくしてブリベットが入ってきた。秘書として精神分析家としてこの病院に携わってきた彼女は84歳である。毎週末にパリからやってきて、ウリ先生の仕事の手伝いをしたり、スタッフの話を聞いたりしている。
Copyright © 2010, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.