連載 ケアフルな一冊『その時殺しの手が動く―引き寄せた災,必然の9事件』ほか2冊
孤独という地獄―自己中心的な……あまりに自己中心的な……
坂田 三允
1
1群馬県立精神医療センター
pp.102
発行日 2004年5月1日
Published Date 2004/5/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1689100231
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禍々まがしい題名の本が並んでしまった。実は今回も前回に引き続き文芸書を選んでいた。小川洋子の読売文学賞受賞作,『博士の愛した数式』である。交通事故の後遺症で「記憶が80分しかもたない」天才数学者と,そこに派遣された家政婦,そしてその息子の物語。2年後に還暦を控えた私は最近とみに涙もろくなっており,心温まる話に弱い。また,ほろりとしてしまったと繰り返すのもあまりに芸がないと,迷っているうちに出会ったのがこの3冊の本であった。
相手も自分も愛し大切にして,関係を育んでいく人々の物語と異なり,ここで語られるのは,他者を,あるいは自分を,あるいはまた世界を信じることができなくなってしまった孤独な人々の物語だ。収められているのは,そのほとんどが,読めば「あぁ,確かにそんな事件があった」と思い出すことができるものである。最近の事件とは限らない。
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