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はじめに
「心神喪失者等医療観察法」が,十分な論議を欠いたままに成立して半年が経過し,平成17年度に予定されている施行開始の時期は刻々と近づいてきている。これまで,この法律の焦点である触法精神障害者の処遇には,ほとんど精神医療関係者しか関与してこなかった。司法関係者が関与するのは処罰の対象とするか否かについての判断のみで,対象外と判断すれば精神医療にすべてを委ねてきた。しかし,触法精神障害者の処遇という課題は,すべての国民に課せられたものであり,誰も避けて通ることはできない。
精神医療に関連する多くの団体が,この法案への反対声明を公表してきたが,その割には議論が深まったように思えない。しかし,この法律をめぐるさまざまな論点は,いずれも日本の精神医療が積み残してきた問題にかかわるものであり,精神医療の将来について考えるうえで避けて通れない内容にふれているように思える。今はまだ,何をどう議論していったらよいかすらも明確になってはいないという段階にあるが,立法までには間に合わなかった議論に,遅ればせながら幅広い視野から取り組む必要がある。
筆者は,松下正明氏を責任者とする厚生科学研究「触法行為を行なった精神障害者の精神医学的評価,治療等に関する基礎的研究」に包含される分担研究の1つとして「触法精神障害者の看護並びに地域支援の手法に関する研究」に取り組んできた。この研究プロジェクトは,「心神喪失者等医療観察法案」の検討が始まって間もない時期に編成されたもので,筆者らは分担研究への取り組みを通じて,触法精神障害者の処遇をめぐる問題点を見極め,今後の方向性を探ろうと努めてきた。この作業をふまえ,本稿では,新たな法律と制度によって何が変わり,どこをどう変え得るかという観点から考えてみたい。
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