連載 ニューヨーク人間模様・5
発信のかたち
大竹 秀子
pp.428-429
発行日 2000年5月10日
Published Date 2000/5/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1686901212
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あっという間に,締切である。
あいかわらず毎日の睡眠時間は3時間から4時間。新聞もテレビのニュースもロクに見ないから,世の中で何が起きているのかさっぱりわからない。買って積んである新聞の山だけがうず高くなっていく。あーあ。
いまのアパートに住み始めた頃,いまから思えばこの界隈はまだけっこう危うい場所だった。家を出て西に2本ほど通りを歩いたあたりは,バワリーと呼ばれ,ひと昔前から酔っ払いのたまり場として悪名高い場所だった。といって,通行人の身に危険があるわけではない。酔っ払いは,「ナイトトレイン(夜行列車)」とか「サンダーバード(雷鳥)」だとか,名前ばかりはなかなかに風情のある,ひと瓶99セントくらいの安ワインを茶色の紙袋の中に隠し持ち,というのもニューヨークでは路上での飲酒が法律で禁止されているからで,警察につかまらないように,一応見えないように気をくばり,道の傍で赤い顔をして寝っころがったりしているのだ。
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