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“病なき病”の氾濫する世の中で
昨今では、心理性格的な発達問題に起因する「病なき病(morbus sine morbus)」とでも形容し得るような、対人関係や適応問題などの生活上の諸困難を抱えている人々が多く精神科クリニックに訪れるようになりました。現代社会がいかに生きづらいものなのかを現しているかのようです。
しかし、固定された疾病に対してはある程度の包容力をもつ医療も、残念ながら「病なき病」に対しては十分な援助を提供できる力をもち合わせていません。また境界性人格障害に代表されるように、少しでも治療の枠から外れるようなことがあれば治療をお断りするといった対応もあります。
その結果、医療に締め出された境界性人格障害の人たちが、地域生活支援センターに増えてきているとも聞きます。アルコールや薬物問題なども同様です。彼らは生きていく限り生活しなければならないのですが、生活そのものに困難が伴う彼らに、回復の場が十分に提供されているわけではありません。
たくさんの事例が、もう既存の医療の枠では対応しきれないということを告げていました。精神科診療所は本来、地域のニーズに応え、デイケアは生活の主体者である患者の病気の痛みを理解し、生活への視点を重視した医療を提供するのではなかったのか……。
私たちはこの課題に取り組むべく、新たなデイ・ナイトケアの開設を提案しました。そうして開設されたのが、「行動・人間関係アディクション」を扱うデイ・ナイトケアでした。これで、診察室という非日常空間の中では表現しにくかった症状が、生活への視点を重視したデイケアの場において浮かび上がりやすくなり、保護的な環境の中で治療できるようになったのです。
アディクションは生活の病です。患者さんは生活の中で何かにアディクトし、周囲を巻き込みながら自分の人生を壊していきます。表1はアディクションの3分類ですが、ほとんどの相談がアディクションの視点でとらえることでわかりやすく交通整理されます
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