生命輝かせて―臨床医としての真髄を求めて・8
いのちがけ
有働 尚子
1
1みさき病院神経内科
pp.739-742
発行日 1999年9月15日
Published Date 1999/9/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1688902054
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しばしの安堵
日本館での思いがけない館長さんの人情味溢れた取り計らいにより,フランス給費留学生でない私が,翌日から憧れの<Maison de Japon日本館>の正式な住民になれることになった経緯の一部始終を,アパルトマンに帰宅するやいなやMme. Mに語ることができた.彼女もまさに自分のことのように喜び,私の新しい門出を祝ってくれた.Mme. Mの住まいは快適な環境であったが,医師になって2年目の私には<居候>という状況は精神的に肩身の狭いものであった.安心できる<定住先>,それも最高の条件の日本館の一室を獲得したことは,私の大きな収穫であり,三重苦に悩まされていた私にとり,その後のパリでの修業生活の幸先の良い気付け薬の役日を果たしていた.
わずかな荷物で渡仏したので,日本館への引っ越しは簡単に出来た.胸をときめかせながら,入り口の重いドアを力を込めて押し開けながら,<今日から私もここの住民なのだ>と心の中で確かめるように呟く.案内された1号室は通常,特別ゲスト・ルームで他の長期滞在用の部屋に比べると少々狭く,ベッドのマットも硬いものであったが,戸棚の中には自炊に必要な食器類・調理用なべなどが一応揃っていた.
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