連載 暮らしの手触り・第5回
医療は黒衣であるべき?
坂井 雄貴
1,2
1にじいろドクターズ
2ほっちのロッヂの診療所
pp.516-517
発行日 2023年11月15日
Published Date 2023/11/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1688202051
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普段ケアの仕事をしていると、ふと頭をよぎることがある。それは「自分の感情を表に出してよいか?」ということだ。人の健康というとても大切な部分に触れるケアの仕事は、やりがいや喜びもたくさんありながら、時に命に関わり、一瞬で緊張感が生まれることもしばしばだ。そんなやりとりの中で、ときにこころが傷つくようなことばをかけられてしまうこともある。「嬉しい」「楽しい」といったポジティブな感情はともかく、ネガティブな感情の扱いは難しい。医療者のプロフェッショナリズムとして、自分自身の価値観や個人的な感情がネガティブにケアの内容に影響しないように配慮することが求められるし、対人支援職としてのコミュニケーションスキルとして、相手の陰性感情の受け止め方やトラブルを避ける方法論があることも理解している。それでも、自分が「つらい」「悲しい」と実際に感じた、そんな感情のやり場は、一体どこにあるのだろうか。
先日英国のとある有名な建築事務所の展覧会に赴いたとき、驚いたのはそのデザインよりも作り手である建築デザイナーの哲学だった。顧客のニーズ、予算、土地などさまざまな条件を考慮しながらも、一つひとつの建物の個性や、その場でどのような人の流れが生まれるかを想像してデザインする、その緻密なプロセスに舌を巻いた。普段きれいな建物だな、とかワクワクするな、とか思いながら施設を利用することはあっても、そこを誰がどんな思いで建てたのか、思いを馳せ、まして実際に知ることはあまりない。建物にも共感や感情が必要だ、そんな考え方があることを初めて知った。そして、医療職である自分の仕事も、外から見たら似たように見えているのかもしれないと思ったのだ。
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