海外だより
黒衣の女と白い砂(3)
桜井 靖久
1
1東京大学医学部医用電子研究施設
pp.244-246
発行日 1966年2月20日
Published Date 1966/2/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1407203900
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さてわが診療所の所長は私である.総勢14名のメンバー中で日本人は私1人だ.アラブの医師は3人いる.モハンムッド・ムーサ・アル・スルーリー氏とユーセフ・ハジャージ・ターベット氏がGeneral doctor,イブラヒム・ラシャード氏が歯科医である.いずれもカイロ大学出身で英国風の教育を受けている.ターベット氏は29歳で私より年下だが世が世ならパレスタイン地方のさる大名のプリンスとのこと.皆口ひげを蓄えて堂々たる貫禄なので彼等と並ぶと所長の私はチョット坊やのような印象を与える.
周囲5,000人の人口に病院はアラビヤ石油の診療所一つしかないのだから患者は毎日200人位は押しかける.会社差し廻しのバスがfamily quarterに出向いて現地人の患者を運んでくる.9時頃にはこれらの患者さんと付添いの人々で一杯になる.診療はすべて無料,会社負担である.利権協定で"附近住民の福祉につくすこと"が一札入つている.中には診療所は海辺に近いからチョットー泳ぎして待合室のクーラーで涼みながらゆつくり皆さんと井戸端会議をやつて,まあきたついででもつたいないから何か薬をせしめていこうなどという輩もいる.沙漠の中の彼等の家に行くと貰つた薬と水薬の瓶とが飾つてあつたりする.
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