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神戸で、音楽療法士の沼田里衣さんらが主催している「音遊びの会」というグループがある。自閉症やダウン症などさまざまな障害をもつ人々と音楽家とが即興で音楽をつくっていく会で、スタートしたのが2005年だから、もう8年の歴史がある。現在、スタッフも入れると40人余りの大所帯。10月末に、NHK教育の「ハートネットTV」でそのロンドン公演の様子がくわしく紹介されるので、ご覧になってみてほしい*。私は2005年当初からこの会の公演を観ていたのだが、気がつくとメンバーに入っていて、実はロンドン公演でも演奏に加わった。音遊びの会の活動に関心をもった時期は、ちょうど高齢者向けグループホームでの観察をしはじめた時期と重なっており、それぞれで感じたことが相互に影響を及ぼし合うようなところがあった。
そのひとつは、以前にも触れた「真似」に関することだ(2011年11月号第4回)。即興で音楽を組み立てていくときに、しばしばきっかけになるのは、相手のやっていることを真似することだ。メンバーが気まぐれにトントン、と叩く太鼓に、こちらがトントン、と真似てみる。すると、お、と相手の注意がこちらに注意が向く。またトントン、と叩くので、こちらもトントン。やがて“トントン”の応酬になる。けれども、「即興」としては、これはほんの入口。今度は、わざと応じずに様子をうかがってみる。相手は、ちょっと意外そうな顔をする。そこにちょっと間をおいて、トントン、とやってみる。すると、トントン、と今度は相手がこちらに応じて返してくる。でたらめでない証拠に、こちらがトントンとやったあとに、必ずトントンと返してくる。簡単なことだけれど、こうして真似する側とされる側は、逆転する。この“逆トントン”ができたら、今度は、相手のトントンにくっつくように、すばやくトントンとやる。すると、真似する側とされる側は再び逆転する。実は、する側される側の区別は、ちょっとした間のとり方でどちらにも転ぶことがわかってくる。ここまでくると2人の演奏に、間のとり方を即興で変えながら、立場を自在に入れ替えるおもしろさが表われる。もちろん、メンバーによって、好みの音の音色や大きさやリズム、タイミングは違うし、注意の向き方も違うわけだが、そういう個性があるのは音楽家とて同じこと。というより、そういう個性をお互いに見出していくのが音楽というものだったりする。
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