連載 介護することば 介護するからだ 細馬先生の観察日記・第2回
向かい合うことと並ぶこと
細馬 宏通
1
1滋賀県立大学人間科学部
pp.766-767
発行日 2011年9月15日
Published Date 2011/9/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1688101984
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グループホームでのレクリエーションの時間、今日は折り紙をする。舟のように折った紙をいくつも重ねて傘を作る。一枚一枚は、三角に折っていくだけの簡単な折りなのだが、岩田さんの手は紙の向きが変わるたびに止まってしまう。向かい合って座っている職員の高浦さんが、「ああ、ちがうちがう」と思わず手を出す。「こうでしょう」。高浦さんは岩田さんが途中まで折った紙を自分で折って見せてから、再び開いて渡すのだけれど、岩田さんの手は再び止まってしまう。「なんでできないかなあ」。高浦さんは少し嘆き調になる。
高浦さんがそんなふうに言うのも無理はない。かつて、岩田さんは入居者のなかでもいちばんのしっかり者だった。食事のときも、ぼくの湯飲みが空になったのをすばやく見てとってお茶をついでくれるほど注意が行き届いていたし、食器洗いや洗濯物たたみも率先してやる人だった。レクリエーションでは、体操やボール遊びなど、他の人がとまどう場面もさっさとこなしていた。それが、二年前くらいから、少し様子が変わってきた。何気ない雑談をしているときにも問い返しが増え、レクリエーションでも動作が滞ることが多くなってきた。この日の折り紙だって、昔の岩田さんなら楽々こなせたことなのだ。
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