特別記事
遺影に手向けた「合格」の報 東日本大震災とある准看護師の死
本田 麻由美
1
1読売新聞東京本社
pp.714
発行日 2011年9月15日
Published Date 2011/9/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1688101970
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2011年3月11日。東日本を襲った巨大地震による大津波が迫るなか、受け持ちの寝たきり患者を2階に避難させていた際に、自分だけ波に飲まれて命を落とした准看護師の女性がいた。その直後、身を賭して患者を救った彼女のもとに念願の正看護師の国家試験合格の知らせが届き、「一緒に喜び合いたかったのに」と同僚らの涙を誘っていた。
その女性は、宮城県名取市の岡部医院訪問看護ステーション遊佐郁(ゆさかおる)さん(享年43)。遊佐さんは11日の午後、医院から車で30分ほどの同県亘理町荒浜にある患者宅に向かう途中、巨大地震に遭遇した。筋萎縮性側索硬化症(ALS)で体の自由がきかない60歳の女性患者の身を案じ、急いで車を走らせ、地震でアスファルトがめくり上がった道路をも乗り越えて到着。幾重にも余震が続くなか、ベッドの上で震えていた患者に覆いかぶさるようにして落下物から守り、そうした経過を職員メールで報告していた。しかし、「家の中の物はほとんど倒れたけど、患者さんは無事です」との通信を最後に、消息を絶った。
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