連載 わたしのことをわたしから・28
愛着のある家を守り続けて
近藤 英
pp.692-695
発行日 2009年8月15日
Published Date 2009/8/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1688101406
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私の育った時代
私は,「中流家庭の娘は年頃になったら花嫁修業をして嫁に行くもの」と考えられていた昭和10年代に育ちました。でも日頃から「自立して生きたい」と考えていた私は,洋裁を学んだ後,戦時の徴用に出ました。ところが母が倒れ,翌年,敗戦の年に亡くなってしまい,小さいきょうだい6人の世話をはじめとした家事一切が,長女の私にかかってきました。洗濯機もない時代ですから昼間は大忙しで家事をし,夜にはミシンを踏んで洋服を作りました。洋服は頼まれて作るほかに,きょうだいのものも作りました。きょうだいの授業参観にも行きました。私は長女だからやらなければならないと思っていました。苦にはなりませんでしたが,戦後,女性がいっせいに社会に羽ばたいていった時代ですから,私も外に出て働きたい,自立したいと思っていました。
日本の伝統の中で生きてきた父は,私に対して「結婚はいいが,勤めは一切ならん」と言って,外に働きに行くことを許してくれません。父の信条は「明日に備えよ」,無駄遣いをせず,ただし教育にかかわること,本を買うこと,対外的な折り目切り目をきちっと考え,行動する人でした。
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