特別記事
現代に求められる「暇げな風貌」と「偉大なお節介」―がん哲学外来の開設から
樋野 興夫
1
1順天堂大学医学部病理・腫瘍学講座
pp.577-582
発行日 2008年7月15日
Published Date 2008/7/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1688101115
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医療の原点としての出雲
筆者は島根県の出雲大社の生まれであることから,講義ではときどき「因幡の白兎」の物語を話す。島から本国に帰る道がないことに困ったウサギは知恵を絞り,海鮫に数をカウントしてやるから一列に並べと言って,ピョンピョン,ピョンピョンと海鮫の背を飛んでいく。そして最後にウサギは海鮫をだましたことを漏らす。海鮫は怒ってウサギの皮を剥いだ。皮を剥がされて弱っているウサギに「稲佐の浜」の人々は,いろいろな治療法を授けたが,ウサギの病状は悪化するばかり。つまり,病気というのは,正しい治療をしなかったら悪化するのである。
浜でウサギが泣いていると大国主命が通りかかり正しい治療法を授け,その結果ウサギは治った。ウサギはまんまと海鮫を騙したのだから,「ざまみろ」と言うこともできる。しかし,大国主命は,その境遇を問わなかった。「治療は境遇を問うてはならない」ということである。
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