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はじめに
福祉国家の先進性,世界的権威のあるノーベル賞などで世界中の耳目を集めるスウェーデン王国。社会民主労働党政権の下,長い年月をかけて構築された社会保障制度や,それを支える税制度,高齢者福祉制度など,社会政策がその焦点の一つだ。
スウェーデンの高齢者福祉行政の基本方針は「安全・安心感」「人格の尊重」「選択の自由」の三原則である1)。スウェーデンでは1992年の老人医療福祉統合改良政策(エーデル改革)後,病院での短期間医療が終了した高齢者や障害者はリハビリテーションが必要な人でも在宅に移り,24時間体制の医療・介護サービスを受給するようになった。これにより病院の社会的入院者数は減少している。
一方,介護・看護が必要な高齢者が地域に増えたため,コミューン(kommun:地域自治体)にとってはリハビリテーション事業の強化とターミナル・ケアが重要な課題になってきている2)。コミューンは財政面から公務員と医療・介護に使用される資金の減額を行なった。そのため,介護職員は離職し,施設利用者の介護施設への入居基準は厳しくなってしまった。国営または県営の高齢者施設は民営化がすすみ,高齢者や障害者が利用できるサービスに変化がもたらされている3,4)。スウェーデンは医療資源を縮小させるため,高齢者ケアの方針を医療から福祉に変換したといわれるが,現場への影響は大きかったに違いない。
スウェーデンでは1997年に社会サービス法が一部改正され「住み慣れた自宅における生活の保障」が高齢者ケアの原則とされた。これは病院や施設ではなく地域で生活することを社会で支える仕組みである。エーデル改革の流れは,国民が人生のほとんどを地域で生活することができるように医療と福祉を統合したとみることもできる。
これらの施策が進むなかで,医療と福祉のサービスを必要とする障害者と高齢者はどのように生活しているのであろうか。我々は,2007年8月28日から9月2日にかけて,ストックホルム県にある高齢者集合住宅,老人ホーム,地域介護の現状を視察し,そこで生活する人々と支援する職員に話を聞いた。
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