連載 わが憧れの老い・13
『リトル・トリー』の祖父母 カップルとしての味わいに満ちた老い
服部 祥子
1
1大阪人間科学大学
pp.962-965
発行日 2007年11月15日
Published Date 2007/11/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1688100954
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山アラシのジレンマ―カップルとして生きる妙味とむずかしさ
冬の朝,寒さに震える2匹の山アラシがいた。彼らは互いに温め合おうと抱き合った。おかげで寒さはなくなったが困ったことがおこった。痛いのである。山アラシには鋭い棘があり,かたく抱き合うと相手の棘が自分を,自分の棘が相手を刺す。痛くてたまらぬ2匹は飛び離れた。すると痛みはなくなったが,今度は寒くてたまらず2匹はまた近づいた。……何度もこんなくり返しをしながら,2匹の山アラシは互いにそれほど傷つけ合わないですみ,しかもある程度温め合えるような距離を求め続けた……。
この微笑ましくも皮肉な話は『山アラシのジレンマ』とよばれる寓話で,ドイツの哲学者ショーペンハウアーに由来するそうだが,フロイトをはじめ精神分析学者が自と他の人間関係を説明するとき,よく引き合いに出す。すなわち2人の人間があまりに近づきすぎると相手の棘(相手の自我)が自分を刺し,自分の棘(自分の自我)が相手を刺す。2つの自我のぶつかり合いになると,愛していたとしても自分が損われたり,自由が奪われるように感じる。そこで離れようとするが,離れすぎると今度は孤独で冷え冷えとした人生になり,それには耐えられずまた近づく。
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