連載 わが憧れの老い・10
池波正太郎―職人気質をもち続けた老い
服部 祥子
1
1大阪人間科学大学
pp.614-617
発行日 2007年7月15日
Published Date 2007/7/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1688100861
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からだで覚える―職人の魅力
百歳の長寿者を取り上げるテレビ番組がある。毎回,私は楽しんでみているのだが,この番組でもっとも心魅かれるのは,職人を生業(なりわい)として生きてきた人のからだであり,手である。
亡夫がプレゼントしてくれたコートを持参し,思い出に残る何かにしたいという老婦人の頼みを聴いて,じっと思案し,ほんの数時間ミシンを踏んだだけでおしゃれなバッグに変身させ,涙ぐんでそれを抱きしめる依頼者の顔をうれしそうに見つめる百歳の仕立て師の女性。少年の頃より船に乗り,港一番の漁の名人になったが,漁に出られなくなってからは,もう若い人にはできないような手製の大きな魚網を後継ぎの息子のために丹念に編み上げる百歳の漁師。
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