視座
日本人気質と臨床
井上 一
1
1岡山大学医学部整形外科
pp.223
発行日 1991年3月25日
Published Date 1991/3/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1408900297
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日常の臨床では,普遍性と妥当性が問われるばかりでなく,より高い安全性と認容性が求められる.例えば,全人工股関節置換術をとってみると,少なくとも10年以上一応安定した成績をもったものとなると,Charnley型に優るものはなさそうである.昨今では,この完成された術式により多くの患者が救われているが,最近発刊されたCharnleyの伝記を読むと,大変な試行錯誤の上に完成されたものであることを知らされる.初期の臼蓋ソケットは,ほとんど早期に再置換されたのは周知の事実であるが,科学的な裏付けがあったにしても概ね失敗に帰した人工関節を,あくない忍耐と努力で完成にもち込んだ彼自身もさることながら,それを受け入れた国民性にも高く敬服する.今日,我々日本人は,そうした人工関節の開発の苦労もなく輸入し,整形外科医として患者への福音を間近にみることのできる幸せを味わわせて戴いている.症例を限定すれば,最初に挙げた普遍妥当性を備え,なお安全でかつ容認される最たる例であろう.
しかし,考えてみると,開発の初期には逆の出来事が起こり,Charnley自身の苦労も想像以上であったものと思われる.平素手術的治療の術式選択に当たって,前記の条件を頭におくことはいうまでもない.また,同じ術式によるまとまった症例の長い追跡調査から,次の段階に進む着実さも重要であることはもちろんである.しかし,それだけで,難治の疾患を根本的に解決していく手法が生まれてくるであろうか.
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