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はじめに
平成12年4月より開始された公的介護保険制度には,いくつかのキーとなるコンセプトがあった。中でも重要なものの1つが,「民間活力の導入・活用」である。これまで公的なサービスに頼っていた介護の分野に,民間企業によるサービス提供の道を開いたことは,画期的なことであったといえる。
要介護認定は,この民間活力の導入に際し,サービスの質を保つためになくてはならないものである。本稿では,平成15年4月より開始される改訂版要介護認定について解説し,その存在意義を,サービスの質の確保という観点から解釈してみたい。ただし現時点では要介護認定の改訂版について,そのロジックがすべて公開されているわけではなく,現在まさに全国規模の第二次モデル事業が行なわれており(平成14年12月現在),この事業結果を元に最終的な変更が加えられることが予定されている。これらのことから,本稿で述べた内容が必ずしも平成15年4月に開始される改訂版要介護認定と全く同一ではないことをご了承頂きたい。
介護保険制度の報酬体系においては,サービスの種類により報酬額の算定方法が異なるが,その変動部分の条件は概ね,①人員配置,②サービス提供時間,③要介護度の3つの組み合わせにより規定される(表1)。1回あたりの定額制をとるのは訪問入浴,訪問リハ,居宅療養管理指導等である。またサービスを提供する時間のみから算出されるものに,訪問看護・訪問介護がある。その他のサービスの多くは,段階の差こそあるが,価格が要介護度と連動しており,要介護度が高いほど高価格である。
介護保険制度におけるキーコンセプトのひとつである民間活力の導入は,市場競争を生み出し,価格及び質の適正化につながることが期待される。しかし,ここに問題がある。質の保たれた健全な競争は経済的にも望ましいが,そのためには,提供されるサービスの質を客観的に評価する仕組みが必須である。ところが,対人サービスである介護サービスを,どのように提供していくかは,市場競争というサービス提供側の因子だけでなく,サービス受給側の因子,すなわち要介護高齢者の状態も強く関与するのである。残念ながらこれまでわが国には,高齢者における介護サービスの必要度を客観的に測定する尺度が不十分であった。介護を受ける高齢者に,どのようなサービスがどのくらい必要かがわからない状況で市場競争が発生すると,提供されるサービスの内容や量の適正性を評価することができない。その結果,単純な価格競争,すなわちより安価であるが質も低いサービスが選択される危険性が生じる。競争を活性化しつつ,提供されるサービスの質を保つという介護保険の目的を守るために,給付対象者である高齢者に対するサービスの必要度を,客観的に評価するシステムの構築,すなわち要介護認定が必要だったのである。
要介護認定は,心身の状況に関する調査結果に基づき,一定のロジックに従って算出される一次判定と,介護認定審査会において,これに主治医意見書等の情報を加えて行なわれる二次判定がある。二次判定は,一次判定の際に勘案が必要であるにもかかわらず,十分勘案されなかった条件について検証し,必要に応じて一次判定を変更することとなる。いわば統計解析結果である一次判定を補うものであるといえる。しかし一方で,上述のように要介護認定が位置づけられることを考えると,市町村や審査会によって二次判定結果に相異を生じることは望ましいことではない。
今回の要介護認定改訂では,このような状況を踏まえ,一次判定自体の精度を高めるとともに,一次判定変更の参考指標を作成,提示することにより,審査会において一次判定を変更する必要がある場合であっても,審査会ごとの二次判定結果の共通性を期することとしている。
今回の改訂の主な改訂点は以下の通りである。
1)一次判定ロジックの再構築
2)身体の運動能力の低下していない痴呆性高齢者指標の作成
3)要介護度変更指標の作成
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