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はじめに
精神障害者地域生活支援サービスの不足
わが国の精神保健医療福祉サービスは,欧米諸国に比較して,在宅型ではなく,入所型の医療サービスを重視してきた。「精神障害者」と言われると,“医療が必要”,“精神病院”という連想になってしまい,扉の向こうの人というイメージを抱かれやすい。しかし,実際には,2002年の患者調査等によると,障害者総数656万人(人口の5%)の中で258万人いるといわれる精神障害者のうち,在宅精神障害者は224万人(87%)であり,在宅生活者が多数を占めている。
在宅で暮らす精神障害者への医療は,外来治療と,外来医療サービスである精神科デイケアが担っており,その数は1000か所余りといわれている。一方,35万床の病床に入院している患者32万人の平均在院日数は,ようやく322日である。入院医療が充実しているから地域サービスが不足するのか,地域サービスが不足しているから医療施設などに頼ってしまっているのか。これは,「卵が先か,ニワトリが先か」の関係で正解を出すことは困難だ。結論としては,たとえば介護保険制度のように制度転換を強力に推し進めない限り,地域生活支援サービスを量的,質的に整えていくのは極めて難しいと思われる。
●サービス実施主体は市町村へ
精神保健福祉サービスの中で居宅支援事業は,2002年から介護保険制度と同様に市町村の責任において対応することになった。ようやく「入院医療中心から,地域生活中心へ」転換が図られようとしている。
ただし,地域ケアサービスの実施主体が市町村に移ったとはいえ,制度的には「保険制度」ではない。身体・知的障害者サービスは介護保険に一歩近づいた支援費制度になった。しかし,その支援費制度は初年度から財源不足に陥っており,障害者の生活保障が困難であることに変わりがないことを物語っている。精神障害者の地域ケアサービスの費用については,現在もなお国と地方自治体によって予算化されており,支援費制度にもなってはいない。精神障害者の生活支援は著しく遅れているといわれる所以である。
●脱施設化と生活基盤整備
今後は基本的な生活支援サービスを医療サービスから転換すること,つまり入所収容型からの「脱施設化」が政策課題となり,本格的な地域サービスへと移行する。特に,政策の目標として,入院中の患者約32万人のうちで約7万人といわれている「長期に入院していて,かつ“何らかの援助を要すれば退院可能”とされる社会的入院患者」の退院促進と,地域生活定着支援の具体策が示される。
ただし法律が改正され,予算措置が成されても,地域サービスを担う支援者が患者の「1人ひとり」に合わせた生活援助を実現できなければ,患者が安心して暮らしていくことはできない。
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