連載 ケアの方舟・1【新連載】
船出
石原 雅彦
pp.456-458
発行日 2004年6月1日
Published Date 2004/6/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1688100523
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ひとりっ子同士の夫婦が重病を抱えた3人の親と1匹の犬とともにあてもなく漂流する泣き笑い航海日誌。
夏の夜の夢
家族がもしも倒れたら……などと題された家庭でできる応急処置の本が我が家にも何冊かある。ふとそんな最悪の事態が来ることを想像して自分で買ったものもあれば,気の利く友人から贈られたものもある。ざっと目を通しただけで本棚に並べてあるけれど,そんな事態に遭遇しないようにというお守りでもあるし,いざという時にあんちょこにすればいいや,というずぼらな安心感の象徴でもある。
すわ,家族がもしも倒れたら,本棚に手を伸ばしさえすれば,すぐにやらなければならない応急処置はきちんと書かれているし,救急車を手配して急いで専門家の助けを借りたほうが手っ取り早い場合もある。だが,家族は倒れてはいないけれど,倒れているのと同じくらいに大変,いや倒れているよりもっと衝撃的な症状,突発的な心の病いだったとしたら人はどうすれば良いのだろう。少なくとも僕たち夫婦は,救急車を呼ぶという外部への救難信号を思い浮かべることができなかった。心の病いというのは,咄嗟であっても家族の内へと閉じたがるものなのかもしれない。
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