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はじめに
高齢者の生活を考えたときに,排泄ケアは重要な要素であるにもかかわらず,これまでその質を問うことは後回しにされてきた。
排泄についての十分なアセスメントがないまま,「常時,失禁がある」「ベッドから起き上がれず,介助者を必要とする」「認知症で,トイレの場所がわからず,1人でトイレに行けない」などの理由で,高齢者は安易にオムツをつけられ,オムツに依存した生活行動をとらされてきたように思う。
オムツをつけられることで,どれほど高齢者の尊厳を傷つけ,辱め,その人の生きる意欲を喪失させてきたことか。その状態を自分の身に置き換えてみれば容易に想像がつく。
たとえ認知症であっても,オムツをつけられた自分の状況について戸惑い,「こんなはずではない」「何かのまちがいではないか」といった違和感が生まれ,それはその人の生活全般に大きく影を落とす。オムツをつけられた高齢者はやがてあきらめ,オムツをつけられた状態に順応していかざるを得ないことを覚る。
私はかつて総婦長として勤務していた老人病院で,身体拘束廃止に取り組んだが,その過程で,人としての基本的な生活を守るケアの充実が,高齢者の身体も心も「縛らない」ことに密接に関係していること,基本的な生活ケアの鍵となるのは「快適さ」であることに思い至った。
不本意なオムツの使用は,高齢者の生きる意欲を失わせるばかりでなく,行動を制限する。歩行バランスの乱れ,転倒を引き起こし,心身両面からADLを低下させていく。排泄物による皮膚障害,感染症の発生も見逃せない。しばしば問題行動とされる弄便,オムツはずしは,高齢者の不快さに対するメッセージであり,ケアする側にこそ問題があるということを知らせるものである。
年齢を問わず,患者に必要なのはコミュニケーションに基づく真の個別ケアであり,排泄ケアにおいてはその人が快適に過ごすためにどのような方法があるかを探り,広げていく必要がある。
私は2002年,NPO法人「市民の立場からのオムツ減らし研究学会」を立ち上げ,以来,全国各地で勉強会を開催し,「もっと高齢者の尊厳を守るケアをしたい」と活動を続けている。
発端は身体拘束であり,高齢者にとって快適でない安易なオムツ使用への疑問であったが,次第に紙オムツの大量消費による費用の増大,環境への影響にも目が向くようになった。
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