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はじめに
筆者が,療養上の世話業務が看護師の負うべき主体的業務であることを前提にしながら,患者が求める看護の質を,排泄援助にフォーカスを当てて実態調査をしたのは,約20年前のことであった。なぜ,排泄援助かというと,床上排泄を余儀なくされる患者にとって排泄援助の如何は,療養生活の質を左右するであろうと考えたからである。そこで,援助開始から終了までの看護師の思考と援助行為ならびにそのアウトカムに至る過程を,臨床経験20年以上の看護師らによって論議し1996年に排泄援助のスタンダードを作成した。これに基づき,実際の排泄援助場面で観察したことは,「優れた排泄援助行為は,患者の病態を素早く判断したうえで,これまでの生活過程での排泄習慣を頭に描きながら,その場で利用可能な物品と最善の排泄環境を素早くととのえて援助する」1)というもので,“さすが!”と,唸らされる場面であった。そこでは,幾重にも重なる思考と援助を反復しながら,その患者にもっともふさわしい援助を実践する様子が観察された。すなわち,援助の受け手側の要因と,援助者側の要因,そして場の要因が複雑に絡み合って患者に望ましい排泄援助を実施し,最終的には患者に満足感を与えていた。
だが,このように優れたわざを,そのわざ提供者の人間性や特技として終わらせるだけでは,排泄援助は個人レベルのわざ(技能的側面)で止まる。わざを伝えるということは,排泄にかかわる心身の問題がいかようであっても,その全過程を滞りなく済ませる技術を伝えるということである。その場合の技術は,「行為の現象としての『形』ではなく,行為を可能ならしめる『原理』」2)であるということをあらためて共通理解しておこう。すなわち,優れた排泄の援助技術には,便・尿器の取り扱い方や導尿の手技に優れるということとともに,排泄の世話を他人に委ねなければならない人の心情への関心を深め共感する能力も含まれるということである。
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