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はじめに
広く健康づくりの運動として利用されている歩行運動(ウォーキング)には,①心肺持久力を高め,脚力や持久力が増す,②全身の血液循環をよくする,③脳神経細胞の活性を高める,④ストレスを解消し,精神的疲労を回復させる,⑤ 生活習慣病の予防効果や治療効果を期待できる,などの効果がある。
ジョギング,水泳,自転車エルゴメーターなども,全運動量が同一であればトレーニング効果にほとんど差は認められない。しかし,ジョギングは膝に故障が起きやすい高齢者に最適とは言い難く,水泳や自転車エルゴメーターは施設がないと実施しにくいなどの理由から,高齢者にとってウォーキングは,戸外でのリフレッシュや気分転換という意味からも最適な健康づくり運動であり,介護予防につながる運動といえる。
ウォーキングは,静的筋収縮を含まない動的な大筋群の運動であり,腕立て伏せなどとは異なり,有意に運動量あたりの心臓仕事量(Work Heart=心拍数×収縮期血圧)が低い。高齢者の運動においては,交感神経のAdrenergic的な血管収縮反応により運動中の血圧が急激に上昇するのをできるだけ避けるために,大筋群のリズミックな収縮要素を取り入れ,小筋群の極度な筋収縮や静的筋収縮を最小限に止める必要がある。動的な大筋群の運動であるウォーキングは,心肺持久力を伸ばし,脚力を鍛え,運動中の血圧上昇を避ける意味でも,高齢者にとって安全で有用な運動といえる1~3)。
加齢やカルシウム不足や運動不足が誘因となる骨粗鬆症は,閉経後の女性に少なくない。ウォーキングは下肢の筋群を主として使用する加重のかかる運動であるが,全身の血液循環を促進させ,新陳代謝を高め,持久力を増す有酸素運動の効果が同時に期待される。したがって高齢者にとってウォーキングは,循環器系,筋肉系の老化防止と骨粗鬆症の予防にも有効である4)。
さらに近年,高齢者の認知症やうつ症状の予防・改善にも,ウォーキングが有効という報告がある5,6)。ウォーキングは,いつでも,何処でも,1人でも,気軽に実行でき,疲れたら切り上げて帰ることができる。コースを選べば,日光浴をしながらの外歩きは季節の移り変わりや,世の中の事象が否応なしに目に入る。引きこもり予防につながるし,仲間と歩けばさらに楽しい。
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