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さる5月17日,2003年度「浦河べてるの家」総会が北海道・浦河町文化会館で開催されました.べてるの家は,精神障害を持つ当事者が中心となり運営する有限会社・社会福祉法人で,弊社刊のベストセラー『べてるの家の「非」援助論-そのままでいいと思えるための25章』(2002年)をはじめ,さまざな媒体をとおして,医療関係者に限らない多くの人々の注目を集めています.
今回の招待席は,その総会の熱気さめやらぬ5月18日に,浦河で収録されました.
―今回の総会は例年以上の盛会でしたね.
向谷地 今回も多くの看護職をはじめ,医師や心理職など多種多様な人たちが集まってくれました.予想以上に参加者が多く,会場を変更せざるを得なくなったほどです.
―総会時に限らず,べてるの家には多くの看護職が見学に訪れるそうですね.看護は,べてるから学ぶべきことが多くあるように感じています.
向谷地さんは,生きていくうえで問題があるのは当然で,精神障害者でもそれは同じ.だから問題がおきても「それで順調だ!」し,人としての当たり前の苦労を取り戻すということをおっしゃいますよね.
一方,看護職は,「転ばぬ先の杖」のようにして,患者さんが困らないよう先回りし,生活上の問題を抽出・除去することに重点を置いた教育を受けています.その根底にあるのは,極端にいえば「問題はあってはいけない」ということです.このような看護職にとって,べてるのスタンスは一種の驚異ですし,とまどいをもって受けとめられるのではないかと思うのですが.
向谷地 それは,医療全体に共通していえることですね.従来の医療は,「この患者さんの抱えているこの苦痛を,今とってあげなくてはならない」という急性疾患への対処を中心に組み立てられたモデルのなかにあります.一方,いわゆる慢性疾患の場合,患者さんたちは病を抱えながら生きていかなければならないわけで,急性期モデルは無力です.医療者としても,慢性疾患の場合,自分たちのケアの答えや成果がなかなかみえないので,不全感を感じてイライラしてしまいますね.そうするとつい,患者さんの問題を取り除いて「よくなりました」「よかったですね」という非常にわかりやすいモデルに立ち返ってしまう.
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