連載 作業療法を深める・第108回
『平家物語』の「老い」—「老い」は「若さ」の欠如ではなく
佐倉 由泰
1,2
Yoshiyasu Sakura
1,2
1東北大学(日本文学)
2東北大学大学院文学研究科
pp.250-254
発行日 2026年3月15日
Published Date 2026/3/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.091513540600030250
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平家一門の栄華から滅亡に至る運命を記す『平家物語』は,中世を代表する軍記物語と目されていますが,多様性を本質とし,実に多くの人を登場させる中で,光と影,静と動,温雅と剛強,制度と祝祭,裁きと救済,叙事と抒情,拡散と集中といった,相反する関係に位置づけられる,さまざまな事物の併存や対照を柔軟に奥深く描いています.この多様性,対照性に満ちた物語世界の中で,「老い」はどのように表現されているのでしょうか.
本稿はその表現の実態と意味を考えようとするものですが,その前提として,一言で「平家物語」と称しても内容,表現の異なる多様な異本があることを述べたいと思います.『平家物語』は,琵琶法師の語りのための本(語り本)としても,文字を見て読む本(読み本)としても広く流通し,その過程で膨大な異本が生成されました.長い歴史の変転の中でそのほとんどが失われてもなお多くの異本が現存しています.高校で「古典」として主に学ばれているのは,表現が特に整った,語り本の覚一本ですが,語り本には,他に,屋代本,百二十句本,流布本等があり,また,読み本では,延慶本,長門本,源平盛衰記,四部合戦状本,源平闘諍録等が注目されています.

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