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はじめに
事例の特徴と分析の視点
■事例の特徴
今回紹介する濱中正行さん(50歳,男性)は,三世代同居の在宅療養のケア態勢を確立し,現在も日常的におこるさまざまな出来事に臨機応変に対応して生活しています。
濱中さんの在宅療養の特徴は3点あります。
1点目は,3世代同居という家族構成です。福井県は共働き夫婦世帯が多く,日本で1,2を争う県です。そのため,日中,家にいるのは高齢者か子どもだけという特徴があります。濱中さんの場合もこの典型的な例で,日中は妻が働いていますし,子どもは大学と高校で,家に残る病弱な両親にはそれほど介護力を期待できません。
2点目は,家族と同居する人工呼吸器を使用した全身性障害者のケア態勢のあり方です。24時間介護を必要とする重度障害者が,家族との同居生活を楽しみながらも,本人と家族1人ひとりの生活を尊重し,家族に依存しない介護態勢の確立をいかに行なうのか。また,身動きのできない身体ながらも,家族の一員として,社会の一員として自分が果たすべき役割は何なのか。濱中さんはこの数年間問い続け,そして闘い続けてきました。
一般的に,人工呼吸器使用者が在宅生活を送る場合,家族に大きな介護負担がかかることが予測されます。もし,家族以外の介護力が望めなければ,重度障害者は常に家族に負い目を感じたり,気をつかうため,精神的に大きな負担を感じることになります。そこで濱中さんは,家族の介護負担を最小限にするため,日中のケアのほとんどを,家族以外の人たち,つまり専門家とボランティアに担ってもらうことを希望しました。
3点目は,ALS患者である濱中さん自らがケア態勢づくりの主体者となっていることです。濱中さんは,発症後比較的早い時期に日本ALS協会福井支部に加入し,現在は副支部長をしています。当初から,闘病生活には前向きで,意欲的に自分で調べて勉強し,主体的に療養生活を組み立てていました。会話ができる時期には,リハビリになるからと医療や福祉を学ぶ学生を積極的に受け入れ,患者の気持ちや利用している制度について語ってくれました。そして,人工呼吸器を使用し始めてからは,パソコンを使ってケアに対する意志を表明し,常に「自分のケア態勢は自分で決める」という意識で毎日を過ごしています。
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