連載 続・白衣のポケット・8
もう,やだ!
志水 夕里
pp.650
発行日 2001年8月10日
Published Date 2001/8/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1686902077
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気分の波は誰にでもある。私には,数年に1度,big waveがやってくる。理由もなく欝になって,話すことも,聴くことも辛くなる。ここ数年は,激しい波を感じずにいたが,とうとうやってきた。中堅ナースとしての責務と板挟み,人間関係,理想を思い描くゆえの自分との闘いなど,細かなストレスは積み重なっていた。以前のように,休日に没頭する趣味の世界でも,発散できなくなっていた。経験年数を経るごとに同期も減り,ざっくばらんに話すわけにもいかない。最近も,スタッフと教育方針でぶつかりあったばかりだ。働いていれば,避けられない壁にいろいろぶち当たった時期ではあった。
その夜,満床で忙しかった。夜は人を狂わせる。不穏の極みも,決まって午前0時前後が多い。深夜勤に赴くと,準夜勤のナースと医師が,フロアベッドで患者2人を相手に格闘している。1人は,「家に帰る」と言って聞かず,どうしてもベッドから下りてしまう。もう1人は,ドレーンもAラインも入っているのに,「歩かせろ」と,ベッド上で大暴れしている。なだめてもすかしても,「お前ら何しやがるんだ!」と聞く耳はもたず,すでに違う世界にトリップしている。患者の意思を尊重したら,ルートを引きちぎって,転倒し,治療の効果は水の泡なのは明らかだ。鎮静剤と四肢抑制,これで夜を乗り切っていただくしかないのかと思うと,毎度のことながら嫌になる。人を縛るなんて,誰もやりたくはない。
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