連載 私が休日に出会った本・7
「わからない」から始めよう
加納 佳代子
1
1八千代病院看護部
pp.561
発行日 2001年7月10日
Published Date 2001/7/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1686901460
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本屋に行ってタイトルに引かれ,平積みの新刊本の山から1冊の本を手に取る。そうしてもらえる数少ない本は,客の何かをくすぐるメッセージをタイトルで呼びかける。「知りたい」という欲求がある人間が本屋に行くわけだから,「わからない」が方法だ,なんて叫んでいる本を見つけると,「何,それ」とまんまと引っかかって,めくってしまうのである。手にとったのは『「わからない」という方法』(集英社刊)。著者は橋本治。くどい文章だなあと思いつつ,やっぱり読みたくなって買う。
学生運動最高潮の1968年,東大安田講堂に立てこもった学生に,キャラメルをもって説得に来た母親を「キャラメルママ」とマスコミは揶揄した。これを皮肉って,駒場祭ポスター「止めてくれるなおっかさん,背なのいちょうが泣いている」を描いた東大生が,イラストレーターとして注目された。この人こそ橋本治である。彼は,小説,評論,戯曲,古典の現代語訳,芝居の演出,果ては,ばかばかしいほど何も編物について知らない人向けの『男の編物一橋本治の手トリ足トリ』(河出書房新社刊)という150枚のイラストつき「セーターの編み方」本を出すなど,何にでも手を出す憎めない顔をしたおっさんである。
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