お産の俗信
妊婦が火事を見ると赤痣の児が生れる
日野 寿一
1
1東大
pp.31-33
発行日 1952年12月1日
Published Date 1952/12/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611200229
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心理学では人の性向を向内型と向外型とに分けて取扱うことがある。向内型性格の人は何事かを深く信じまたは強く想像していると,いつの間にか想像が固定化してそれが実在のことであるかの如く感ずるようになり,甚しい場合には肉体の形質にも客観的な変化を起すに至る。極めて稀ではあるが「想像妊娠」というものがある。是非子供が欲しいと強く望んでいる場合,または逆に絶対に妊娠してはいけないのにその機会があつた場合等に,その人が向内性傾向の強い人であると異常な精神作用のため,まず月経が止まり,異味を嗜み,強い悪阻症状が現れ,次いで乳房が太くなり乳暈や外陰部に色素沈着が起り,妊娠月に相当して腹部が膨れ,しきりに胎動を感ずる。しかし実は本当の妊娠ではなくて,単に想像を客観化した虚像にしか過ぎないから,妊娠の確徴は現れない。尿の妊娠反応は陰性で,胎児心音は聴えず,内診してみると子宮は少しも大きくなっていない。臨月になつても何も生れないと,何ということなしに妊娠酷似症状が自然に消散していく。
「妊婦が火事を見ると,生れた兒に赤痣がある」
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