連載 スクラブナース5年生・49
火事
鈴木 美穂
pp.463
発行日 2009年6月10日
Published Date 2009/6/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1686101487
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先日,私が働いている病院で火事があった。火災が発生したのは私が二重扉の隔離部屋で患者のケアをしていた最中らしく,病室の外に出た途端に焦げくさいにおいが鼻を衝いた。まもなく火災警報が鳴りだしたので,私は他のスタッフと「なに? 火事? 本物?」などと会話を交わしながら,病室の扉を閉めて回った。しかしそう落ち着いていられたのも束の間,あっという間ににおいが強くなり,煙で「もや」がかかりだしたので,みんなでリネンを湿らせ病室の扉の下の隙間にあてがった。
そうする間にも視界はどんどん白く狭まり,そのまま病棟に留まってはいられなくなっていった。しかし,館内放送は火災警報と“Code Red”というアナウンスを繰り返すばかりで,火元がどこなのか,どこにどう避難すべきなのかなどの情報が一切得られない。白い闇に囲まれ「このままでは息ができなくなる」と焦燥感が漂い始めた。
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