連載 おとなが読む絵本——ケアする人,ケアされる人のために・197
あなたは,何をどのように見ていますか?
柳田 邦男
pp.246-247
発行日 2023年3月10日
Published Date 2023/3/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1686202349
- 有料閲覧
- 文献概要
昨年の初冬のころ,ドキュメンタリー映画と絵本という,相互には直接関係のない作品が,偶然同時に私の目の前に現れて,私はそれぞれに深く感銘を受けるという経験をした。しかも,2つの作品は,哲学的にも人間論的にも,ほとんど同じと言ってもよい意味が根底にあり,そのあまりの共通性に,私はただただ不思議な思いにふけるばかりだった。
ドキュメンタリー映画は,絵画や彫刻に造詣の深い岡野晃子監督による『手でふれてみる世界』だ。イタリアに30年前に創設された,目が見えない視覚障害者のための「オメロ触覚美術館」の誕生秘話やその美術館が障害者や芸術の世界にもたらした意味を,現地ルポによって構成した作品だ。岡野さんは,静岡県三島市から富士山寄りに入った長泉町の丘陵地にあるヴァンジ彫刻庭園美術館の副館長を昨年まで務めていた人で,イタリアの現代彫刻家ジュリアーノ・ヴァンジ氏と親交がある。ヴァンジ氏は,「オメロ触覚美術館」の建設に深くかかわるとともに,多くの作品をその美術館に提供していることから,岡野監督が「オメロ触覚美術館」に強く関心を寄せることになったのだ。
Copyright © 2023, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.